令和三年一月。
様々な事がひと昔前より多様化してきており、今まで常識だと考えられていた事や実現不可能だと考えられていた事が、もしかしたら個人の匙加減でどうにでもなって終う事だったのかも知れないと、いちいち疑わしく思う事が増えた。
それは、社会での働き方や個人の習慣など多岐に渡り適用する新ルールのようで油断がならない。
私が趣味を愉しむなかで、宝飾に関する情報を多角的に得られるよう常々努力しているのだが、
その中でも一番多く目に飛び込んでくるのは婚約指輪・婚約に関する情報だ。
『彼女と婚約を考えていますが婚約指輪は必要だとは思えません。婚約指輪を買わないで済むには彼女にどのような説明をすれば良いですか?』
インターネットには定期的にこのような質問が湧く。
婚約指輪は必要だとは思えません!…まあそう思うだろうな〜と感じる。
こういった場合、質問者は男性である場合が殆どである為、贈る本人が使用しない上に必要な理由も不明な(その上、贈られた女性が婚約指輪を活用するかどうかも甚だ怪しい!)婚約指輪は費用の無駄遣いと感じてもさほど不思議ではない。
(尚、女性から男性へのプロポーズや同性同士のプロポーズであれば、細かな事情が違って来る為、今回は男性が女性にプロポーズをするというケースに絞り話を進めていく)
婚約指輪を贈る側からしたら、本当に無駄な出費だとしか思えない婚約指輪、しかし本当に無駄で本当に必要がない物なのか?
日本国内の社会通念に於いて婚約指輪というものはどのような位置づけか、それを加味しこれこれこう言う理由で必要なのだよと引き合いに出しても、
冒頭に申し上げた通り、文化・慣習・伝統などの指針はあれど、個人の価値観や匙加減を優先してもよい時代にはあまり意味を成さない。
そのような事を前提に、宝飾に関する事を趣味にしている人間として個人的で正直な考えを述べるとしたら、
『婚約指輪を贈られて幸せな気持ちになる、そのような経験をしたい女性にとって、その夢を叶えてあげられるのはあなたしかいない。』
という事実である。
そして私からも質問を投げ掛けたい。
『その夢を叶えてあげられるのはあなたしかいないのに、彼女のその夢を、叶えてあげたい気持ちにならないのですか?』
世の中の殆どの品物は、ある程度の高額品であれど、自分自身の努力と根性さえあれば手に入れる事ができる。
時計やハンドバッグ、車や住宅も、自分自身の努力と根性の結果、手に入れる事は不可能ではないのだ。
しかし、婚約指輪という品物は、自分に結婚を申し込んで来た相手が贈ってくれない事には絶対に手に入らない。
しかも、あなたが頑なに、婚約指輪は不必要である故購入する事は出来ないと考えているなら、
そんなあなたと結婚してしまった妻は、どれだけ憧れがあろうとも、一生婚約指輪を手にする事はできない。
そう、離婚するその日までその機会は一生来ない。
私の学生時代の友人に、彫金を習うほど宝飾が好きなのに、指輪だけは絶対にしないという女性が居る。
理由を聞くと、初めて指に通す指輪は、婚約する時にと決めているらしい。
そのような価値観の女性にとっては、愛する恋人…これから結婚して互いに幸せにし合おうという相手が『婚約指輪は不必要』という価値観であれば酷である。
尚、婚約時、様々な事情で婚約指輪の購入を見送った場合、結婚後に二人で築いた資産の中から婚約指輪を購入しても決して遅くない。
婚約指輪という品は、婚約時に用意し贈った指輪という意味合いよりも、
『私は、この女性に自分の意思で求婚をしまして、そうする事で承諾を得ましたから結婚をしたんですよ。』
という約束の証のような物なので、贈る意思と受け取る意思があればいつでも良い。
ここまで読んで、婚約指輪の購入を考え始めた諸君が気になる事は予算だろう。
予算については結論から申し上げるが、婚約指輪は贈り物である為、平均価格を指針にすると良い。
例えば、お中元やお宅訪問の手土産などを選ぶ際も、平均的な価格と平均的な品物を調べて、贈る相手の状況を考え最終決定をすると思う。
このような場合、平均価格は三千円〜五千円だとマナーブックに書いてあっても、
デパートの菓子売り場には、様々な価格帯の菓子折りが並んでいるという事は、贈る相手や状況で平均価格を変える事もあるのだなと容易に想像できる。
そうする事で、上司のお中元に110円の豆菓子を送ってしまったり、親族宅を訪問し糖尿病の祖父に水羊羹を手渡してしまうなどの失敗を未然に防ぐことが可能になる。
婚約指輪も難しく考えすぎず、それと同じような決め方で構わないのにも関わらず、婚約指輪の買い物に関しては上記の失敗に類似したエピソードをよく聞くので、ここまで読み進めた勤勉な諸君にはよく考えて慎重に行動する事を勧める。
尚、筆者の場合は、プロポーズされたらゼクシィ♡でお馴染みの、
漬物石並に重たい雑誌に毎度記載された、婚約指輪の平均価格ぴったりで指輪を購入してもらった。
婚約時、我々には殆ど資金がなかった為、
『結婚式や披露宴、新婚旅行は無しで良いので、婚約指輪だけ理想と考えているものが欲しい』
と打診した。
価格は平均であるけれど、石の品質は平均より低品質を選び、石のサイズは平均より大きいものにしたが大変満足している。
受け取ってから五年近く経過している感想としては、
使用頻度も高く、この指輪にしてよかったと感じているし、私の理想を叶えてくれた夫に対し感謝の気持ちを抱いている。
ひとつだけ心残りなのは、記念写真くらいは写真館で撮れば良かったなあと思う事だが、
宝飾を趣味にする人間として、指輪だけでも理想を叶えた事が大きな糧になっていると感じる。
もしこの長たらしい文章を読んで、妻に婚約指輪を贈らなかった事をヒョッコリ思い出してしまった幸運な男性がおられたら、
先程言及した通り、心のこもった美しい指輪を、可能であれば今すぐに贈ると良いだろう。
(勿論、サプライズにしたい場合は家計からではなく、個人の財布から購入する事が先決。突然家計から数十万円の買い物をすると妻をびっくりさせてしまうため、その様なサプライズは厳禁であると心得る事)
妻の心の柔らかい場所に、婚約指輪に対する憧れの気持ちがまだ存在しているのならば間に合う。
暖かで幸せな想い出を作る絶好の機会は【今】なのだ。
そして、その美しい指輪の訪れと共に、妻の心に温かで幸せな灯りが灯ったら、その灯りは一生消えずに、その心を温め続けるだろう。
妻の心が暖かければ、きっとあなたの心も丸ごと暖めてくれるに違いないのだから。
最後に…
長々と色々な事を書いたが、結局全ては各々の価値観次第でどうにでもなる事だ。身も蓋もないがそれが真実だ。
本人の強い拘りにより、絶対に婚約指輪・結婚指輪は受け取りたくないと考えている、とある女性の話を聞いた事がある。
理由は、それらを身につけると、自分が夫の所有物のように感じてしまうから絶対に嫌だ、と言う事らしい!
私はそんな風に感じた事が無かった為、そんな風に考えている人も居るんだと驚き、色んな人がいて色んな価値観がある事が面白いと感じた。
そういう価値観の女性も探してみれば一定数存在するのだろうし、どうしても女性に贈り物をしたくないと考えている諸君にはそういう女性をパートナーにすれば全く問題が発生しないのでおすすめできると言える。
そうそう、昭和に生まれた人間としては、令和三年【風の時代】の波に乗れているのか確かめる術がなく甚だ不安だ。
発言一つを取っても油断ならない昨今、本日のようなセンシティブな話題に触れる記事を書く際は、非常に肝を冷やす。
以上。