
前回の記事の続きです。
ありとあらゆる箇所の損傷が大きいアールデコ時計を新品の時計のように修復できたとして時計本人はそれを望んでいるのか…?と、疑問を抱いてしまったというお話でした。
アールデコのプラチナダイヤ時計は大変に気位の高い品物、こちらが製造された1920年当時に於いては相当なお金持ちの貴婦人しか手にできなかった超高級品です。
それなのに、まるでG-SHOCKのような価格で、庶民の私がウッカリ入手してしまった…。
庶民な上に素人の私が、この美しい品物をアレコレ改造なんてしたら台無しにしてしまうのでは…?というところまででした。

こんな時に私が良く使うのは、雑コラ(雑に作ったコラージュ・雑な合成写真)でシュミレーションをしてみることです。
ジュエリーの加工って全てに言えるのですが、実際に作ってみないと仕上がりの感じが分からない事が多いです。
この雑コラは、デザイン画を緻密に描くよりも実際のイメージに近い雰囲気になる為、悩んでしまった際の対策として非常におすすめです。
然し本当〜に雑なコラージュなので、本来であれば皆さんにお見せするようなものではないのですが…今回は載せてみます。

左はフルダイヤバージョン、右はサファイアバージョンです。
ダイヤモンドもサファイアも箪笥の肥やしリングから石を拝借する予定でしたので、この写真の段階ではまだリングの枠に留まったままです。
そして「一番下にペアシェイプのダイヤモンドをぶら下げるべきではないか♡」とお友達がご助言下さったので、 ペアシェダイヤモンドを手描きで付け加えました。
仕上がったイメージを見て、これなら悪くないかも…??そう思いました。
然し、この小さな開口部に希望する宝石がぴったりハマるのかは、職人さんに聞いてみないと分かりません。
実際は新しく入れる宝石に石枠をつけるため、裸石の状態でピッタリだと少し大きいという事になるからです。

職人さんの工房にお邪魔して、そもそもここまで壊れた裏蓋の蝶番が直せるのか、入れたい宝石が留められるのかを伺います。
すると、フルダイヤバージョンもサファイアバージョンも可能との事でした。
「えっ、どっちにするか決めてない(笑)」
そうなんです、どっちもOKになるって思っていなかったので、可能な方で作って貰おう〜みたいな感じでフワッと考えていたのです。
フルダイヤにするかサファイアにするか、職人さんにもご意見を伺いながら…
結局は「何にでも合うからダイヤ!」みたいな安直な理由で、フルダイヤバージョンでお願いして来ました。

今回の修理の内容はこんな感じです。
細かい修理をこれだけやらないといけなくて、だいぶ難しい加工だったんじゃないかなと思います。いつもありがとうございます(深いお辞儀)
そもそも、件の時計は様々な人の手を渡り、色んなところで色んなレベルの修復を施されておりました。
ブラックダイヤみたいなメレダイヤや氷砂糖のようなメレダイヤが留まっていたり、修復時に適当に作ったであろう変な爪で留まっていたり、長期間の使用によるラグの歪みもありました。
また、こちらは時計のケースなので、竜頭の穴を塞ぐ修理も必要です。
今回の加工も、ダイヤモンドは全て手持ちの物を使っていただき、ぶら下げるペアシェイプダイヤモンドはローズカットにしました。というか手持ちにローズカットしかなかった(笑)
仕上がりは数週間後…。
気位の高いアールデコ時計が、変わらぬ気高さで首飾りへと蘇る事を、ただただ祈りながら待ちました。

仕上がりを見て驚きました。
まるで最初からこの姿だったかのような佇まいに、ほっと胸を撫で下ろしました。
100歳のおばあちゃま時計は、新しい世界に転生し、美しい首飾りのお嬢様に生まれ変わりを果たしたのです。

新しく留められた全てのダイヤの輝きも、アールデコの時代の雰囲気に合っています。
柔らかく輝くが、輝きの強さが弱いわけではない、七色の輝きを放つ美しいダイヤモンドです。
当時セットされたメレダイヤはシングルカット、私が持ち込んだ現代のメレダイヤとはカットが違うので輝き方が違いますが、センターをオーバルダイヤにした事で、全体的なまとまりが出たと思います。
もしセンターをラウンドブリリアントカットにしていたら、新しく足したダイヤモンドだけがギラギラと浮いてしまった可能性がありました。

歪みがあったラグ(上下の飾り部分)も、しっかりと真っ直ぐに、姿勢が良くなりました。
写真で比べてみると、違いが良く分かりますね。
下にぶら下げたローズカットのペアシェイプダイヤモンドも、デザイン的な完成度をぐぐぐっと上げてくれています。

ローズカットの枠は覆輪留めにミルウチを施して頂き、アールデコの時代に寄せて下さっています。
小さな部分ではありますが、こういう所を疎かにしない事が全体的な雰囲気を作るんだなぁと、大変勉強になりました。

仕上がり時に職人さんから伺ったのですが、目視では分からないけれど実際に加工してみるとプラチナの地金が薄く、加工が凄く難しかったと言う事でした。
この時代のプラチナは割りがねがイリジウムなので、現代のプラチナよりも硬く、地金が薄くても複雑な加工ができたと言うことみたいです。
この様に、アンティークの時代のお品物は現代のお品とは勝手が違うことが多いので、本当に腕の良い職人さんでなければ、加工の依頼を受けて頂くこと自体が難しいのかもしれません。

裏蓋の蝶番も修理が終わり、中に何かを納めて持ち歩く事ができます。
例えば香りを染み込ませたガーゼや、大切な写真などですね。
中に何かを入れてしまうと少しダイヤモンドの輝きが落ちてしまうのはご愛嬌、石枠内部の金属反射も、石を輝かせるのに一役買っているのです。
問題なくスムーズに開閉し、パチンと閉まる事が、何だかとっても嬉しいです。

竜頭の為に空いていた穴も綺麗に塞がれました!
職人さん曰く、地金が薄くて目立たなくなるまで磨く事ができませんでした、とのこと。
言われなければ分からないですし、時計だった頃の痕跡が僅かに観測できる感じに、寧ろロマンを感じます^^

中石のオーバルのダイヤモンドはこちらのリングから拝借しました。
輝きの良いオーバルダイヤモンドリングだったのですが、なぜか出番がなくって…。
これからは沢山お出かけに連れて行ってあげましょう。
石を外したリング枠はしっかりした良い枠ですので、今後のジュエリー加工に使うべく大切に保管してあります。

実際に身につけるとこんな感じです^^
短いチェーンで着けると服を選ぶ感じがしたので、ロングのチェーンで身につけています。
ロングの方がこなれた感じがするのかな、カジュアル寄りのお洋服にも合います。
魔法アイテムっぽいというか、何かを秘めていそうな独特なデザインなので、胸元にチラッと見える感じが素敵です。
とっても気に入っています( ◠‿◠ )

本日は、アールデコの時計ケースを首飾りに改造してみた、と言うお話でした。
実はサファイアバージョンも気になってしまって、同じような価格でアールデコのジャンク時計が売っていないかな〜と市場を眺めたりしているのですが全く見かけない…。
こう言うお品は、そう幾つも出会えない、一回限りのギフトなのかも知れませんね^^
(おしまい)

































