あれは土曜日の昼頃のことだったと思う。
東海道の車内は混雑していて、やっと座れたのは品川を出た時だった。
向かい合わせになっている席に身体を押し込むと、目の前には小柄な女性が座っていた。年齢は私の母より少し上か同じくらいに見えた。
髪は小さく纏めており、上質なパンツスタイルという装いだった。
醸し出す波動はあまりにも上品であるのに、どこか男性的な、一本の光の筋が通ったような雰囲気がある。
左手には沢山のダイヤモンドが輝いていた。
小指に二本、薬指に二本、ダイヤモンドが石畳のように敷き詰められた重厚感のある指環と、少し可憐さのあるダイヤモンドの指環がそれぞれの指に重ねられていた。
無数のダイヤモンドが、輝きの連鎖で大きな光を放っており、それは豪華な煌めきであった。
ああいう着け方は、今の私が真似をしても素敵にはならないのだ、そう直感で感じた。
そして特に印象深いのは、左手首に巻かれている、たっぷりとダイヤモンドが散りばめられた華奢な時計だった。
あれは今絶対に作られることはない、アンティークのお品であろう。
余りの美しさに、目を伏せた。
ゆっくりと瞼を閉じて、美しい映像を反芻する。
いつかあのような美しい時計と、ご縁が繋がるだろうか…。
新橋、というアナウンスが聞こえ顔を上げると、目の前は空席となっていた。
(おしまい)