リエコの手帳

趣味と暮らしの覚え書き( ◠‿◠ )

街ゆく人の素敵な宝石3

昼下がりの事だった。

大船駅から乗った東海道は、平日にも関わらず空席が少なかった。

男女が向かい合わせに座っているところの隣の席を選んだ。

その時、何故そうなったのか全く思い出せないのだが、その男女と会話をする事となる。

自分達はもうリタイアしていて、今日は熱海に旅行をしてきた、そう楽しそうに話す女性は、とても可愛らしい人だった。

「私は鎌倉の女学校に行っていたのよ。」

「そうだ、君はお嬢様学校に行っていたんだ。僕なんかは相手にされないようなお嬢さんでね…。」

「やめてちょうだい。この人はもうずっとこんな風で、女の子のお尻ばかり追いかけていたの。だから私はね、この人に教えてあげたのよ。よそのお尻は見てはいけませんよ、って。」

「そんな風に僕に言うもんだからさ、参ったよ。」

私はふんふんとお話を聞いていた。

こんなに素敵な、軽やかな雰囲気の人が現実に存在していることに驚いていた。

「今回はね、ずうっと前、大昔に行ったっきりだった熱海がね、今すごく良いって言うじゃない?だから行ってみたのよ。」

「へえ。熱海では観光をされたんですか?」

「あはは、ずうっとお酒を飲んでいたわ。」

「そうなんだよ、飲んでいたな。」

「それはそれは、素敵な旅ですね。私もお酒が好きです。」

それから私の目的地に着くまで、沢山の楽しいお話を伺った。

そのご夫婦は、東京へ帰られるとのことだった。

私の記憶に映像としてくっきりと残っているのは、左手の中指に輝くソリテールのことだ。

あれは恐らく…ティファニー社のダイヤモンドソリテールだと思う。

ざっくりとした麻のロングワンピースに、ジュエリーはそれ一つだけ…。

その潔さに圧倒的な説得力を感じた。

可愛らしくて芯が強い、あのなんとも言えない楽しい雰囲気は忘れることができない。

あんな女性になれたら、あんな夫婦になれたら、どんなに素敵だろうと回想する。

 

(おしまい)