夕暮れ時の商店街は、忙しそうに歩く人々で混雑していた。
人の波をゆっくりと潜り抜けると大通りに差し掛かる。
信号待ちをしようと目を伏せると、美しい蝶が目に飛び込んで来た。
大きく羽を広げた青色の蝶が、歩道の真ん中で動けなくなっていた。
私は、この蝶を見掛けると良い事が起きるものだと信じている。
その美しい蝶は、青い蛍光色を放ち鮮やかに光るのだから、良い事が起こるのに違いないと、勝手に信じているのだ。
そろそろ信号が青になる頃、横断歩道を渡らず、力尽きた蝶の元に引き返した。
もう意識はないのだろうが、ここにいたら踏まれてしまう。
この美しい青い羽が、グシャグシャに潰されてしまう事は哀しいと思った。
鞄からティッシュペーパーを取り出し、蝶に被せようとした瞬間、慌てたように動き出した。
生きていたのだ。
然し、飛び立つ事はできないようで、ティッシュペーパーにしがみついた。
私は蝶を、ゆっくりと生垣まで連れて行き、葉を掴めるように誘導した。
蝶はふらふらとしていて、うまく葉を掴めず、ぽとん、と生垣の中に落ちた。
生垣の中は柔らかな土が敷かれているのだから、ここでゆっくりと過ごすのは、きっと心地が良いのではないかと思った。
生垣の上から覗いてみたが、蝶の姿を確認する事はできなかった。
もしかしたら、最初から蝶など居なかったのかも知れない。
(おしまい)