飯屋の行列に並んでいた。
ここはテレビや雑誌にも紹介される店であるが、地域密着型の飯屋という側面もあり、休日はえらく混む。
漸く席に案内されるというその瞬間、ふと振り返って視線を落とすと、後ろに並んでいた女性の手元がきらりと光った。
それは一瞬のことであったが、それなのにも関わらず私の脳裏にはっきりと映像が焼きついていた。
きらりと光ったそれは、間違いなく大粒のダイヤモンドであった。
輝いていたのは、薬指をすっぽりと包むかのような2ct程の鬼爪、ダイヤモンドの立て爪の指輪であった。
それは、ふくよかな女性によく似合っていた。
年齢は母と同じくらいなのだろう、ダイヤモンドと共に過ごした年月が輪の枠に無数についた傷に現れている。
あの距離で、あの一瞬の出来事で、ありありと覚えていると思うと驚きを隠せなかった。
私にとっては、どんなに豪華にダイヤモンドを散りばめようと、大粒のダイヤモンド一石には勝てないのだな、そう認識した。
ダイヤモンドという石は、どうしてここまで強く印象深く輝くのだろうか。
あれはキュービックジルコニアではないのか、いやそれは違うときっぱり思う。
あれは間違いなく、ダイヤモンドだった。
そわそわとしながら、冷えた大ジョッキになみなみと注がれたビールを流し込んだ。
胸の高鳴りがおさまらない。
(おしまい)