ある宝石商は、毎年インドへ買い付けに出かけると言う。
「なぁ、おねえさんは宝石の占星術って知ってるかァ?」
そう言うと、自身の指に嵌めていた翡翠のようなエメラルドの指輪を外し、ゆっくりと回転するように見せてきた。
「これがな、自分の石ちゅうことやねん。普通の指環とは違ってな、この指環は肌に石が触れるように作ってあるんやわ。」
ほう…と見詰めると、確かに石のお尻部分が肌に触れるように露出している。
どうやら宝石の占星術というのは、インド人の多くが信仰しているもので、生まれた時間や位置から自分の星を算出し、そのデータに基づいて自分の石というのを調べるらしい。
こうして分かった自分の石を身につけたらどうなるかと言うと、
「悪いもんが無くなる、みたいな話や。」
と、ちょっとよく分からなかったので調べてみると、自分の石を肌に触れるように毎日身につけると、自分のカルマが無くなるという事らしい。
「へえ、そんなもんがあるんですか。面白いですね。」
「あんたもネットで調べたらいいわ。なんか無料で調べられるってインド人が言ってたで。」
しかし、その無料サイトは全てインドの言葉であり、調べることはできなかった。
ただ、はっきりと憶えているのは、翡翠みたいなエメラルドは真四角にカットされていた事である。
その真四角なエメラルドを包むのは、たっぷりとした18金で、その大きな無骨な手にとても似合っていた。
私はこの頃から、牡牛座の星座石であるエメラルドを大切にしている。
それはインド占星術ではなく、西洋の占星術だったと思うが、兎に角牡牛座にはエメラルドが良いとの事だ。
宝石を身につける時に「素敵な事が起きる」という気持ちで身につけることは、心理面でもとても良いものだと思う。
それは、日々繰り返していく毎日に、ほんの少し特別な感覚を与えてくれるようだ。
そうだ!
夫も牡牛座なので、夫のぶんも私がエメラルドを持たなくてはなるまい。
(おしまい)